「天才」「日本で十指に入る」と感じた職人技を人工知能(AI)に学ばせたい。その思いが世界初の功績につながる。ベンチャー企業「イノカ」は沖縄の海を水槽内に再現し、季節をずらしたサンゴの人工産卵に成功した。創業したCEO(最高経営責任者)の高倉葉太さん(28)は、サンゴのみならず海の保護、そして潜在力を活用して生活を豊かにする未来図を描く。
「サンゴが認めてくれた」
サンゴの表面に並ぶ無数の突起が、抱えていた小さな球体を手放す。あちこちから、ひとつ、またひとつ。水面に向かって浮かんでいく。水槽内での人工産卵。しかも本来6月なのを真冬にずらした。イノカが今年2月、世界で初めて成功。水質、水温、光量などの要素を自動的に制御し、沖縄の夏の海とサンゴ礁を再現した成果だ。「私たちの技術をサンゴが認めてくれたのかな」
出発点は、東京大学大学院でAIを研究していた2018年。かつて工場の鋳型職人だった増田直記さん(32)との出会いだ。趣味は同じアクアリウム。観賞にも堪えうるように水槽内を美しく整える。訪ねた自宅で巨大な水槽に圧倒された。10年育てたサンゴで、はち切れんばかり。「多くの水族館でも不可能だろう。日本で十指に入る職人技だ」。この知識と経験をAIに学ばせ、自動制御できたら――。大学院を修了して19年4月、イノカを立ち上げた。増田さんがCAO(最高アクアリウム責任者)に就く。
それまでは世界を変える家電をつくりたかった。東大在学中の16年、産業用機器を開発するベンチャー企業の創業に参加したが、夢は実現しそうにない。ほどなく限界を感じた。
次にめざしたのが中学2年から親しむアクアリウムの事業だった。サンゴ礁には多種の生き物がすむ。一方で気温が上がれば危機に直面する。単にサンゴの水槽を売るのではなく、この状況を広く伝え、サンゴをはじめ海を守る。この二つを使命と定めた。
世界初の成功にどうたどりついたのか。記事後半で詳しく紹介しています。
伝える対象は小学生が中心…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル